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魔法剣士の姫君(旧作)3
2011-08-21 Sun 02:21
 シュッセル港を出てボルスティア帝国のある大陸までは凡そ一ヶ月。帝国の港が終着点の船だった。だいぶ長旅だ。シュッセル国が世界の隅にあるから仕方が無いと言えば仕方がないのだが。それ故に何ヶ所かの港に止まる。何処かの港に寄る度にそこで降りる者、新たに乗り込む者、そこ此処では運び入れられる荷物や降ろされる荷物。貨物船も兼ねた客船。これがこの世界ではごく一般的な庶民が島を移動する時に使う船だ。

 イリア達は帝国で開催されるであろう后選びの催しまではまだだいぶ時間があるとして、ボルスティア港の一つ手前の港で降りる事にした。

 そこからであればゆっくりと国内を見ながら国の様子を伺い知る事が出来るからだ。ボルスティアの民が一体どの様な暮らしをしているのか直接見るのには丁度良かった。

 それぞれの愛馬を引き連れて港町の中をゆっくりと散策する。

 この港町から帝国の中心ボルスティアまでは馬を走らせて一週間程の所にあると聞いた。イリアはそれを港町で商人に聞きながら旅に必要な水や携帯食等を買い込んでいったのだ。

 充分に間に合う。此処に来るのに一ヶ月。自国で二週間を過ごし、後一月半は時間が残っている。既に后候補として呼ばれた国の姫は我も我もと後宮に押し掛けている頃だろう。

 だが、そうまでして帝国には行きたくない。そもそもあまり乗り気ではなかったのだ。皇帝の后の座に興味のないイリアにとっては出来るだけギリギリまで国内を見て回り、相手に失礼のない範囲丁度一ヶ月位前に行けば良いだろうと考えていた。それまでは観光気分で国内を見て回るつもりだ。

「兎に角出発しようか。此処から東にずーっと進んでいけば帝都ボルスティアですって。途中に大きな街も二、三あるみたいだし、そこに逗留しながら行きましょ」

「賛成~~! 早く行こう!! この子達も走りたくてウズウズしているみたいだしね」

 この子達とは三人の愛馬である。

 イリアが乗っているのはフラムと言う名の愛馬で、イリアが時間を見付けては丹誠に世話をしっている、無くてはならない存在だ。そこいらの名馬よりも早く駆け、頭も賢く性格も温厚だ。

 リンディが乗っているエルは勿論彼女の愛馬。エクレアの乗るショコラは彼女の愛馬で、それぞれ仔馬の時から世話をして此処まで育て上げた。イリアの馬に付いていけるのはこの二頭以外に未だお目に掛かった事は無かった。それ程までに大事にされた馬達なのだ。

 今回は長い船旅で、船内のちょっとしたスペースで慣らしで走らせる事しか出来なかった為にかなり欲求不満の様だ。三頭とも早く広大な大地を駆け抜けたいとそれぞれの主に訴えかけている。

「それじゃあ、次の街を目指して走らせるぞ! 途中魔物も出るみたいだから気を付けて進むように」

「分かった」

「了解~」

 それを合図に三人は馬に跨り帝都に行く途中にある街を目指して馬を走らせた。

 流石は世界最大を誇る帝国の敷地内。街や帝都までの道筋がちゃんと整備されてとても走りやすい。それは隅々までかの皇帝の指示が行き届いている証。これだけ大きい国ともなれば随所までその政策を行き渡らせるのは難しい。少なくとも見える範囲には綻びは窺えない。今代の皇帝も若い年齢とは言えかなりの手腕の持ち主の様だ。

 后候補云々を抜きにして政策に付いてだけ話し合ってみたいものだとイリアは密かに思った。それは実現不可能だろうが。

 馬を暫く走らせて行くと整備された街道が無くなり、目の前には鬱蒼とした森が広がっている。斜面になっている事からどうやら緩やかな山なのだろう。帝都に行くにはこの山を越えて行くしか無いみたいだ。

「そう言えば商人が言ってたわね。この山の向こうに大きな街があるって」

「道がない訳じゃないから大丈夫なんじゃないかな?」

「そうだな。今まで街道をひたすら走って来たから魔物にも出会さなかったがお誂え向きの場所だ。変な輩がいるかも知れん」

 そう言ってチラリとイリアは木々の間に視線をやる。微かに木の葉が揺れて見えた気がした。それだけでリンディとエクレアの二人も気が付く。自分達以外に人がいる事に。

「じゃ、注意しながら行きましょ」

 だが、本人達はそれらを気にする事なく山道に馬と共に入って行った。

 三人が去ったその後ろを木の陰を利用しながら動く複数の人の姿がある。

「おい、良いカモが来た。お頭に連絡しろ」

「へいっ」

 一人がその輪から抜け、残りの者は無言のままイリア達の後を追う様にして山の中へと消えていく。そのやり取りを全て見ていた更に別の人物達の姿に気が付かず。

「………見たな? あの者達には運がなかったと思って囮になって貰うか」

「なーんか気が引けるなぁ…。女の子達なのに…」

 木々の間から二人の男が姿を現す。一人は全身黒ずくめ。しかしその容姿は群を抜いて整っている。大抵の者は見詰められるだけで頬を染めて舞い上がる程の容姿だ。

 一方は洋服を着崩したラフな格好で一見、軽い容姿に思えるが、均整に整った体は鍛えられた様子を伺わせる。故にそこいらの軽い軟派な連中とも違う。彼の顔もまた全身黒ずくめの男とまた違う整った容姿をしていた。

「女の子達…? あんな隙が無いような連中がか?」

「へっ?」

「お前も一集団のトップを預かる者ならば分かる筈だ。アレらはただ者じゃ無いぞ」

 黒ずくめの男が確信した様に言うともう一人も納得した様だ。

「………間違いないのか?」

「馬もかなり訓練された軍馬の様だ。間違いなく強い」

「気を詠む事に長けたお前が言うなら間違いがないか…。それなら今回の作戦は楽になるかな」

 そう言う男に黒ずくめの男は鼻で笑う。

「それはどうかな? お前がしくじらなければの話だ」

「おー、おー。相変わらず辛辣な男だ。んじゃま、こっちも動きますか」

「失敗するなよ」

「わーってるよ。今、連中に伝達する」

 そう言って軟派な男は懐から何やら紙切れを取り出すと、それを宙に向かって放り投げる。

放り出された紙はそのまま地面に落ちる事無く影も形も消えた。

「此方も動くぞ」

「へーへーっと」

 そして男二人もまた後を追う様にして山の中へと消えて行った。







 
’09・08・11


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