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魔法剣士の姫君(旧作)1
2011-08-21 Sun 02:18
 執務室では朝食を片手に懸案事項に目を通しながらイリアは次々と署名をしていく。驚くかも知れないが、第三姫が今や国の政治をほぼ手中に収めその姫が国を動かしていると言っても過言ではない。

 後継者たる王子は生まれず女ばかり三人。周囲はその事に嘆きもしたがそんな物はこの第三姫たるイリア・シュッセルが吹き飛ばしてしまった。一時期国を離れていた事もあったが、国に戻り瞬く間に元々持ち合わせていた才能を遺憾なく発揮し、気が付けばこの国動かしていた。ゆくゆくは漸く係累に生まれた男児たる従兄弟にその座を譲るつもりではいるが、その権威は譲った後も続くであろうといわれている。今では国王よりも頼りになる存在となっていた。

 また周辺諸国には知れ渡っていないが、彼女は誰よりも国を愛し、国民を大事にする王族で、民からも圧倒的に支持されている。容姿など関係なく彼女には何かを惹き付けるモノがあった。それに加えてこの国の王家に希に生まれる水色の髪をしている。

 これはこの国の王家のみの証。しかもその王家の中ですら水色と言う色を持って生まれる者は極希だ。今現在王家の本家筋と係累を合わせてもこの色を持つ者はたった三人、その内の一人がイリア。

 それは後継者と同等の意味を持つ。

 この国に生まれる王族で水色を宿す者は最も尊ぶべき存在。

 イリアは正にそれに相応しい人物なのだ。

 それが例え国外には伝わらずとも。







 朝早くから取り掛かっていた書類の最後の一枚に署名を終えると同時にドカドカと足音が響き、ついで執務室の扉が勢いを付けて開かれた。同時にその部屋にいた者、全員が次に起こる出来事を察して一斉に己の耳を塞ぐ。

「ちょっとイリア!! どう言う事よ?!」

「そうよ、どう言う事?!!」

 金切り声がさして広くも無い部屋に響き渡る。必要最低限のマナーたるノックも無しに突如入って来たのはこの国の第一、第二姫のマーテル、シャルティ。

 二人とも朝日に煌めく銀色の豊かで軽くウェーヴを巻く髪を綺麗に纏め、己の体を惹き立たせる最新のデザインをあしらったドレスに身を包んでいる。顔の造形は成る程、確かに美しい。髪の色と同じ瞳は魅惑的に男を捕らえて離さない。傾国の美女と噂になっても可笑しくは無い程だ。

 だが、しかしそんな彼女達の顔はこの国に伝わる般若と呼ばれるものとそっくりに顔を怒りに歪めている。。

 その表情すら美しいと言う者もいるだろうが、この部屋には生憎彼女達の本性を知る、イリアとその側近達しかおらず、皆一様に迷惑そうな顔をしていた。

「朝っぱらから騒々しい。一体何の用ですか?」

 それでもイリアが素っ気ない返事を返すと姉であるマーテルの怒りが増す。

「用ですって?! 姉に向かってその態度!! 本当にかわいげが無いわ?!」

「それはどうも。で?」

「私達に向かって何よその口の利き方! 本当にあんたは身の程知らずね?!」

 代わる代わる言い募る二人にイリアはもう一度ため息を吐く。

「だから一体何なんです? 用が無いのでしたらお引き取り下さい。私は忙しい。あなた方の相手をしている暇は無いのです」

「くっ…! ドレスを新調するなって一体どう言う事よ?! 仮にもわたくしとシャルティは王族よ?!! そんなわたくし達がドレスも新調できない何て恥さらしも良いところだわ!!」

 そう言ったマーテルにイリアはこれ見よがしにため息をもう一度吐いた。

「ドレスなど既に山の様に持っているでしょう? しかも最新とか言って二十着も既に購入済み。それ以上は無駄です。民の税を何だと思っているのですか。ドレスなど一つ季節が過ぎてしまえば着なくなり、捨ててしまう。そしてまた新しいのを購入し、そしてまた捨てるの繰り返し。これ以上民の税を無駄にする訳にはいきません。何時何時何が起こるか分からない。民の税はあなた方の為にある訳ではないのですから。税は民の為に使われるべき物。それを御自分達の物と勘違いしないで頂きたい。そうでなくてもあなた達は必要ない物を必要以上に買い込む。少しは民の暮らしをその身でもって学んでは如何ですか? だいぶ賢くなれますよ。用はそれだけですか? でしたらどうぞお帰り下さい。出口はそちらです」

 そう言ってイリアが扉を指差すとマーテルとシャルティは凄い形相でイリアを睨み付けると怒りも露わにヒールを高らかに鳴らして部屋を出て行く。嵐は過ぎ去った様だ。

 その場に居た者は全員安堵のため息を吐く。

「馬鹿者共は去った。執務を再開するぞ」

 イリアが告げると側近達はそれぞれに頷いた。

 執務室にこうして嵐のように襲撃して来る第一、第二姫の事はもう殆ど習慣になっている様なものだ。それはイリアが執務を取り締まり始めた頃からの事。無駄だと思う物は全て彼女達に関係する物が殆どであった為、それを片っ端から潰して行ったのだ。

 お陰でイリアと彼女達の仲は最悪と言って良い。

 いや、それ以前からも仲が良いとは言い難かったが。二人の容姿は確かに目を見開く程美しい物で、男なら誰でも惹かれるだろう。それ故、幼い頃からさんざんチヤホヤされ傅かれて育った為、我が儘放題。国王も娘達には甘い為それに拍車を掛けていた。

 一方イリアは幼い頃から既に己の立場と王族としての役割を理解し、一時期前国王に付き従って国を離れて修行を積みに出ていた。戻って来た後も国の為に働きだしていたのだ。容姿は確かに平凡かも知れないが才能は非凡で優秀だ。お陰で現国王ですらイリアには別の意味で頭が上がらないと言う有様。

 だからこの三人は仲が悪い。

 それは国民なら誰でも知っている事であった。







 何時もの邪魔者が入ったが、取り敢えず午前中の執務は無事に終わり、一息吐いた所で側近達をそれぞれの部署に戻らせ漸く昼食をとっていた。この時間が一番安らげる時間。周りには自分が選び抜いた侍女二人のみ。余計な煩わしさは無い。

 昼食を侍女である彼女達と共にする。

 他の国では考えられない事ではあるが、イリアはそうする。食事くらい気楽にしたって構わないだろうと独自の理論による物だ。侍女二人も選び抜いたとは言っても殆ど幼なじみと言っても過言ではない。確かにこの自分の側に来る為に彼女達は独自に努力し、自らの力で此処まで来たが。

 それでも気安く出来るので二人の存在は重宝するべき者なのだ。

 そして何気ない雑談をしながら話は今朝の襲撃事件へと話題は移る。

「今日も襲撃あったんでしょ? あの我が儘娘達」

「リンディちゃん…流石に我が儘娘ってどうかと…一応姫様だし…」

 カラカラと笑いながら言う侍女リンディに言葉は遠慮がちだが表情は全く持って困っていない、むしろにこやかな笑顔をするもう一人の侍女エクレア。

「あら、それ以外に呼び名が無いじゃない。我が儘もたいがいにしろってって話よ。イリアの言った通り、国民の血税を何だと思っているのかしら」

「それはその通りだけどね。でも、イリアちゃんこのままで良いのかな?」

「何がだ?」

 紅茶を飲みながらエクレアに聞き返す。

「だって最近、とみにお客様が増えているでしょう? このまま相手してたらイリアちゃんの睡眠時間がますます減っちゃうよ」

「あー確かに飽きる位に客来てたわね」

 リンディも同意し、その二人の言葉にイリアは苦笑した。

 この彼女達の言うお客様とは正規のお客様ではない。紛れもない招かれざる客である。勿論発信源はあの第一、第二姫と見て間違いないだろう。

「いや、あれでいて私のストレス発散に役立てて貰っている。正直政務ばかりで息詰まる事も多い。運動不足の解消にも多少はなっているしな」

「まぁ、確かにそう言われればそうだけどね」

「でも、最近のお客様って質悪いよね。弱くなって来ているって言うかさ」

「だんだんあいつらの手駒が減って来ているんだろう」

「確かにお客様向ける以外にあんたを殺そうなんて出来そうにないものね。あの馬鹿姉二人には。そこまで賢く無いものね。こう言う時って本当に毒に耐性持って置いて良かったって言うべきよね。前国王陛下には感謝してもし足りないって感じかしら」

 物騒な言葉がリンディから放たれたが、実際にこの三人は幼少の頃より前国王の指示の元に少しずつ毒入りの食物を摂取し、毒に対する耐性を身に付けていた。今では毒が効かない体質となっている。

 イリアと第一、第二姫の仲が悪くなり出した最初の頃は二人付きの侍女らがイリアの食べる食事にありとあらゆる手段で持って、毒を混入させていた。だが、イリアは食べた瞬間に毒があると判断していた。しかし食べても毒に耐性を持っていた為、そ知らぬ振りで食べていたのだ。その事に姉達はたいそう驚かされた事だろう。早々にくたばると思っていたのに平気な様子だったのだから。

 その後も幾度かに渡って徐々に毒性の強い物が混入されていたが、イリアは更に知らぬ振りをして食べ続けた。その後厨房の者達には悪いが、リンディとエクレアがイリアの食事を担当する事になり、その混入事件は終わりを見せた。が、今でも時々厨房に食事を頼むと毒が混入されている事が多々とあった為、相変わらず懲りずに入れている様だ。

 しかし、それでは飽き足らず今度は何処からともなく雇った暗殺者らしきお客を送り込んで来る様になっていた。しかも偉く腕の立つと言われている者達を。金に物を言わせてと言った所か。最近は彼女達の使う金にも目を光らせているのに一体何処からその金を捻出しているのか疑問にも思うが、大方彼女達に熱を上げている他国からの貢物を秘密裏に処分してそれで金を作っているのであろうが。

 しかし、馬鹿な姉二人に関しては父王は娘に甘過ぎて役に立たず、母王妃は静観の構えだ。馬鹿姉二人が裏でこそこそと自分に対して何かしらをしでかしているのは知っている事だろう。しかし、あくまでもそれは姉妹喧嘩の延長と悠長に構えている。

 母王妃は娘達のやっている事等既に承知している事だろう。だが、イリアの性格と言う性格を知り尽くしており、姉達の性格も知り尽くしているから放置していると言っても過言ではない。放任主義。

 確かにイリアにとっても口出しされるよりはマシだ。お陰で国政に手を出しても何も言われないしこうして何かをしても母はイリアの考えにほぼ肯定の構えを見せてくれている。イリアが姉達のしている事でどうこうと言う騒ぎを起こさないと言う事もある。朝の騒ぎは別にしてもイリアがまともに姉達と相対する気も無いからだ。

 それに…と言う考えもある。

 自分達が例え共倒れになったとしてもあの母王妃は困った子達ねで終わらせる可能性があるのだ。それは王位継と言う立場に漸く係累に生まれた幼い男子の存在があったから。いくらイリアが国で尊ぶべきとされている水色の髪を持とうがイリアは女性であり、第三姫と言う立場だ。

 その事を幼い頃から知っていたイリアはだから前国王に付いて世界を回った。そして己の身を守る術や国民の為にはどうあるべきかを学んだ。

 本来武道や魔術と言った物を学ぶ姫はこの世界にはいないと言っても良い。一般の者達は日ごろ切磋琢磨して女性だろうが、男性であろうが関係ないと言うのに暢気なものだ。習ったとしても回復の魔術程度。それが当たり前。

 だがイリアは違う。祖父の下で武術と魔術その両方を学び、腕を磨き上げた。もっともこの事を知っているのは前国王とリンディ、エクレアの三人のみ。

 イリアは前国王の下で政治経済について学んだと思われているのだ。

 現在では侍女兼護衛も兼ねているリンディ、エクレアの両者がそのお客様達を片付けている事になっているのだが、実際はイリアもちゃっかり参加し、日々の鬱憤晴らしも兼ねていた。それを二人が片付けた事にしているだけなのだ。

 だからイリアは武術・魔術共に鍛えてはいないと第一、第二姫は考えているのである。いや、その前提しか頭にない。だが、実際に見る者が見ればイリアがかなりの実力を持っている事を感じるだろう。それは普段の動作に現れる。立ち居振る舞いに無駄な動きが無いのはそのお陰だ。武道に通じていない者が見ても何となく綺麗な動きをするなと感じさせる程度で、流石は王族と他者は納得してしまう。だからその思い込みそれこそがイリアの実力を隠す隠れ蓑になっている。

「ま、それもあの二人がとっとと他国に嫁いでくれれば鬱陶しい相手も終わる。いい加減相手を選り好みし過ぎて嫁き遅れも良い所なんだからな」

 マーテルは二十一歳、シャルティは二十歳。イリアは十七歳なので、まだ嫁き遅れではないが、上二人は相手と国を選り好みし過ぎて未だにこの国に居座っている。この世界の姫君達の婚姻は十四から十八歳までの間がごく一般的。

 その年を通り越しても未だに候補者が後から出てくるので流石美貌だけが取り柄の二人ではあると言うのがイリアの感想だ。

「まー嫁ぎ先の国が傾かなきゃ良いけどね。二人の我が儘で。で、あんたは? あんたこそ適齢期真っ只中でしょうに」

「そーだね。イリアちゃんはお相手どうするの?」

「私か? 私には上の二人がいるから縁談等迷い込んでは来ないだろう。それにシュティが大きくなるまではまだ此処を離れる訳には行くまい。行く行くはそうなるかもしれんが、その可能性もひくいだろうな。第一私等を嫁に迎える奇特な輩もいないだろう」

 シュティとは本名、シュティッツ・シュッセル。イリアの従兄弟で今年漸く四歳になったばかりの子供だ。この国の第一継承者と言っても良い。そんな彼に今現在の自分の地位を明け渡しても構わないのだが、いかんせんまだ幼すぎる。それだったら彼が大きくなるまで待つのが妥当と言うものだ。

 国の為にさえなればそれで良い。それによって婚期が過ぎて貰い手が見付からなくてもそれはそれで構わないとイリアは思っている。そこまでして結婚に意味を見出せないのだ。

 上二人が片付くまで政略結婚等も無いだろう。

 国内の貴族は昔イリアが行ったある行為により、好んで近付こうともしない。そんな理由で国内外共に政略結婚のせの字も出て来ない。

 そう言い切ったイリアにリンディとエクレアの二人は少々複雑な表情をしていた。

「あんた…本当に夢も希望も無いのね…」

「そーだよ、イリアちゃん。結婚は大事だよ?」

「そー言われてもだな…。元々結婚等には興味が殆ど無かったんだ。私の事は気にしなくて良い。二人はしたくなったら遠慮無く言え。祝いの品を送ろう」

 そして立ち上がる。

「なる様にしかならない。人生そんなものだ」

 さあ、雑談はお終いだ。そう言って紅茶を片付けるように命じるとイリアは席に座り午後の政務を開始準備に取り掛かった。

 リンディとエクレアは顔を見合わせてため息を吐くと周囲の食器などを手早く片付け、同時に部屋から下がる。同時に部屋にノック音が響き、政務の側近者達が中へと入って来たのだった。



 そんな昼食での会話を覆すような出来事がこの後すぐに待ち構えているとは知らずに。







 
’09・08・09


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