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魔法剣士の姫君(旧作)29
2011-08-23 Tue 01:13
 皇帝陛下の手をイリアが取った瞬間、周囲は騒然となった。

 まさか話題にも上らなかった姫君を皇帝陛下がダンスとは言え、最初の相手として選んだのだ。

 周囲に驚きが広がるのは無理もない。

 同時に、心得ているとばかりに優雅な調べが流れ出す。

 それは二人が踊る開始の合図。

 周囲は静寂に包まれる。

 そして二人はゆっくりと踊り出した。

 片や皇帝。片や話題にも上る事も殆ど無く、珍しい髪の色をした容姿も極平凡で、着ている物も男装と見紛う服装をした姫君。

 何とも不思議な組み合わせだが、何故だかしっくりと来た組み合わせに周囲は次第にその光景を羨望の眼差しで見始めた。そんな中、ティルローゼが殺意も露わにイリアを見ていた。

「何故、あんな者を…っ!」

 ギリリっと唇を噛み締める音が聞こえて来そうだ。

 その瞳は嫉妬の色に支配されている。







 踊りながら、イリアは口を開く。

「………やられましたよ、デュオ殿……」

「くくっ……。気が付いている思ったのだがな…。やはり龍族の術は凄い様だ」

「流石に高位に龍神族とも呼ばれ位置する彼等の力を目の当たりにした事もお会いした事もありませんでしたから…。それに皇帝陛下の事を調べるなんて恐ろしい事なんて出来もしません」

 喋りながらも二人は滑らかな動きで踊る。

 イリアも一通りのダンスを踊る事は出来るのだ。普段、それを生かさないだけで。

「済まなかったな。今回の事が無ければ后選定もそのまま無かった事として済まそうとしたんだ」

「しかし……。貴方も奇特な方ですね。私何ぞを最初に踊る相手として選ぶなんて」

「そうか? イリア姫はなかなかに面白い。そこかしこにいる姫よりも余程美しく見えるぞ?」

「……その上目が悪いと来ましたか」

 そんなイリアの言葉に皇帝陛下は気を悪くする所か面白げにより一層に笑みを深める。それは端から見ても親密な関係に見えた。

「此処までそんな風に言える者も初めてだ。ますます面白い姫だ」

「…褒め言葉として受け取って置きます。しかし、皇帝陛下」

「何だ?」

「他にも狙いがあって私を選んだのでしょう?」

「頭の回転も速い。ますます気に入った。臣下に欲しい位だ」

「やはり…。魔の者は入り込んでいたんですね」

「正確には取り憑いていると言った所か。魔の者との繋がりを持つ者を見つけ出すには、契約者の負の感情を煽るのが一番だ」

 見て見ろと促されたその皇帝の視線の先にはティルローゼが殺気を剥き出しにこちらを見ている。それは何処の国の姫君も一緒だったが、ティルローゼのその視線は一線を越していた。負の感情が蜷局を巻き、ティルローゼの周りを覆っている。

「あれは………」

「そうだ。魔の者と契約をしている証だ」

 此処まで巧妙に隠されていたのも初めてだと皇帝が口にする。

 確かに今まで魔の者の気配を感じ取る事がティルローゼから出来なかった。しかし、禁止されている筈の魔の者との契約をしている者がいるとは思っても見なかった。王族でそれなりの地位にいる姫君だったからこそ予想外の事だ。

「……あれから索敵は可能か?」

「やります」

 答えると同時にイリアは神経を集中させ、広範囲に渡ってその負の感情を辿り、魔の者の位置を探る。こちらから探ると言う行為は相手からも干渉され、逆に操られると言う危険性も伴う。相手が魔の者だからこそより一層その危険性が増す。

 しかし、そうも言ってられない。

 慎重に辿って行くと、その気配は皇帝陛下の城の上空へと繋がっていた。

 そしてイリアの目には目の前に居るのは皇帝陛下の筈なのに、別の誰かへと変わる。その姿は全身が黒く、その中で血の様に紅い禍々しい瞳が輝く、魔の者。

 その魔の者と視線が合った。

「っ?!」

 イリアはその瞬間、すぐさま索敵の魔法をうち消した。

 あのままでは魔の者の気配に当てられる危険性があったから。十年前に相対した魔の者よりも更に高位の力を持つ魔の者。それは間違い無い。

 だが、視線が合った瞬間その魔の者は言った。



【ついに見付けた】



 確かにそう言ったのを感じ取った。

「大丈夫か?」

「ええ………」

 答え様とした言葉は突如遮られる。



「ああああああああっ!!」



 突如として響いた女性の大声に二人は視線をそちらに向ける。その場には負の感情をより深く深めたティルローゼの姿があった。

 彼女の視線は虚ろで、だがその瞳は緑から禍々しい濁った紅い色へと変貌していた。

「ひっ姫様っ?!」

「お、落ち付いて下さいませ!」

 彼女の使用人達が宥め様とするも、ティルローゼの暴走は止まらない。そればかりか危険性の高い攻撃魔法を用いてそれを使用人に放つ。

「きゃあああああっ!」

「うわあああっ!」

 その事に会場内に悲鳴が満ちる。

 我先に逃げ様とする者、腰を抜かし動けぬ者と様々だ。

「イリア!」

「イリアちゃん!!」

「陛下!」

「皇帝陛下!」

 イリアと皇帝陛下の元にもそれぞれの部下であるリンディ、エクレア、皇帝陛下の身辺警護当たっていたクノーラ、そして会場全体を見守っていたラドルフが駆け寄って来る。

 同時にラドルフがイリア達も含めた周囲に結界を貼る。

 攻撃魔法を防御する魔法だ。

 同時にティルローゼが暴走して放った魔法が防御壁にぶち当たって消えた。

「あれって…!」

「ああ」

 リンディがイリアに確認を取る様に言うとイリアは頷く。

「これが魔の者の力か…」

 ラドルフは苦しげに呻きながら結界を貼っている。

「すげぇな。下手に近付けばこっちの命もねぇけど、あっちの命も無いな」

 ラドルフとクノーラも皇帝陛下を庇う様にして前に立つ。

「このまま放って置くとあのお姫様の命!」

 エクレアの言葉にイリアはまたも頷く。

 そう。このまま放って置けばティルローゼはその膨大な魔の者の力に耐え切れず事切れる。彼女の力は魔の者の力を借りているとは言え、大本はティルローゼ本体の魔力だ。彼女は魔力が高い人間とは思えない。既に命を削ってこの攻撃を続けているのだろう。

「これは根本的に魔の者との繋がりを断ち切らなければならないな」

「ならば、その繋がりを断ち切るまでですね」

 皇帝陛下の言葉にイリアはそう答えると、右手を掲げる。

 その手には光を発して瞬時にシュッセル国の宝刀とも言うべきカタナがその神々しい光と共に姿を現した。

「ラドルフ殿、結界を解いて下さい」

 そのイリアの言葉に一瞬、驚きに目を見開き、ついで皇帝陛下を見やり、皇帝陛下が頷くのを見て、結界を解く。

 同時にティルローゼの視線がこちらを向く。と、同時にイリアの姿を認めると、周囲にあらん限りに放っていた攻撃魔法を集中させ始めた。

「遅い!」

 イリアはその攻撃を駿足で駆け抜け、またはカタナで切り捨てると一気にティルローゼとの間合いを詰めた。

 そして

「我がカタナは古来より退魔の剣と呼ばれている。その力を持ってその魔、断ち切る」

 言葉と同時にカタナを振り下ろし、ティルローゼと魔の者を繋いでいた負の感情を断ち切った。







 
’10・07・25


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