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魔法剣士の姫君(旧作)27
2011-08-23 Tue 01:12
 煌びやかな世界。

 イリアの眼前にはそれが広がっていた。

 帝国城内にあるダンスホール。そこかしこに多くの紳士淑女、そして数多の使用人達が行き来している。思い思いに着飾っている男女が犇めく中に、一際目立つ姿で着飾った姫君達。

 彼女達は皆、招かれた后候補達である。

 誰もが皇帝に選ばれるのは自分だとばかりに自己主張の激しい服装で、いかに己が目立とうかと言う思惑が見て取れる。

 それ以外の者は帝国の貴族達だ。

 こんな緊急に開かれたパーティだと言うのに、数多くいると言う事はいかに貴族が暇を持て余しているかと言う事だ。

 壁際に背を掛けながらその様子を眺めてため息を吐く。

 何とか二人のドレス攻撃から逃れられ、いつもパーティ用に着ている服に袖を通す事が出来た。これは此処に来た初日に開かれた晩餐会にも着ていた物だ。皇帝の后の座等狙っていないイリアは別の物を着る必要性は感じられない。装飾品を変えただけで、デザインは殆ど同じだ。

 そんなイリアには各国の后の座を狙っている姫君達から視線を貰っては見下されると言う事を繰り返していた。皆、他国の情勢が気になるのだ。それにイリアは朝方、セリア姫が引き起こした騒動の噂が既に広まっていたのだ。

 だから皆、イリアが気になる。そこに皇帝が絡んでいるのでは無いかと。

 だが、初日と同じ様な格好で現れたイリアの姿を見ては、そんな話など無い。こんな容姿も下の者などあの皇帝陛下が相手にする筈も無いと見下し、安心して去って行くのだ。それが先ほどから繰り返されていた。

 いい加減、同じ行動を取る姫君達に呆れるが、今此処を去る訳にはいかない。

 魔の者が何時仕掛けて来るか分からない。

 先ほどから索敵魔法の精度を上げて探っているが、未だにその陰は無い。

 それ以上に広間に渦巻く負の思惑が索敵の邪魔をしていると言っても言い。此処まで感度上げるとそれに引きづり込まれる気がする。

 ため息を吐くと一旦、イリアは索敵を止めた。この調子ではこちらが参ってしまうかも知れないからだ。

 何より、先程から一際痛い敵意が向けられていた。

 その敵意の正体はロディア国の姫君、ティルローゼである。晩餐会の折に何かと絡んで来た姫君だ。

 彼女も今回の騒動を耳にしていたのだろう。

 彼女が各国の中でも一番美しい容姿を持っている様で、他の変に凝ったデザインのドレスを纏っていなくても流行の最先端を行くデザインを身に着けただけでそれは注目の的だった。

 その彼女の周りには既に多くの人集りが出来ている。候補者以外の国の参加者達は彼女が皇帝陛下の后として最有力候補なのだろう。必死に周りの者達はティルローゼのご機嫌を伺っている。中心にいるティルローゼは上機嫌にあしらったり、応対したりとそれはそれは優越感を露わにしていた。

 暫くその光景を眺めていると、フッと彼女と目が合う。

 すると敵意が強くなると同時に優越感に満ちた視線を寄越された。そしてそのまま皇帝陛下が姿を現す玉座の側近くまで裾を翻し、多くの取り巻きを連れて行ってしまった。

「イリアってばかなり敵視されていたみたいね」

「………どうやらその様だな…」

 きっと自分の晩餐会の時と変わらぬ姿に満足したのだろう。そんな者に皇帝陛下が気を持つ筈が無いと。嫉妬とはやはり恐ろしいものだ。

「イリア大丈夫?」

「はい、これ飲み物」

 リンディとエクレアが気付き、周囲に神経を張り巡らせながら問う。

 エクレアから飲み物として渡された果実のジュースを受け取ると頷く。

「ああ。今の所、魔の者の気配は感じない。この会場に巡っているのは負の思惑ばかりだ」

「知らないのって幸せよね」

「本当。さっきから見下して来る視線はウザいしね」

 リンディとエクレアも見下す視線の数々にウンザリしていたのだ。

「そう言うな。それでも此処を魔の者に襲われればひとたまりもない。一応は各国の上にいる存在ばかりが集まっているのだからな」

 そう言って一口飲み物を飲む。

「それもそうね…っと、そろそろ皇帝陛下のお出ましかしら?」

 周囲が一際賑わっている。

 イリアはそれと同時に周囲への索敵を再開する事にした。







「ティルローゼ様で決まりですわよね」

「そうですわ。姫様以外に皇帝の后に相応しい者などいませんもの」

「当然よ」

 お付きの侍女達に言われなくても分かっている。今回の候補者達を見渡しても自分以上に美しい者などいなかった。その証拠に自分の所には他と比べ物にはならない程、機嫌を取ろうと有象無象の者達が取り巻いている。

(当たり前よ。私以外に皇帝の后の地位に相応しい者などいませんもの)

 何より心配していたのはあのシュッセル国の美人姉妹と歌われる姫がいない事だった。悔しい事に彼女達の美貌には自分すら敵わなかったのだ。何時もパーティと言う名の外交での華を飾っていたのはあの二人。それだけに何度煮え湯を飲まされた事か。

 おまけにあの二人の態度は気に食わない。どれ程己の自尊心を崩された事か。

 だが、今回はあの二人はいない。それ以前に第三姫がいると言う事も知らなかったのだ。

 そんな噂にも上らない者を寄越さないなんて最初は馬鹿にしているのでは無いかと思った。

だから早々に自信を無くさせ、辞退させようと晩餐会の夜姉達の変わりの憂さ晴らしも兼ねて、標的にしたが、イリア姫は自分達の会話には最初から加わろうとせず、黙したまま、光景を眺めているだけだったのだ。

 極めつけは后になる為に来たのではない。早々に国に戻りたいと身の程を弁えている様な台詞を残し、その場から逃げる様にして立ち去った。己にはそう見えたのだ。

 髪の毛の色が珍しいと言う事を差し引いても自分達には遠く及ばないと判断した。だが、あの二人を姉に持つ姫なのだ。一応用心の為に探らせていたが書庫に籠もるか信じられない事に庶民が屯する城下へと降りるか。それ位の動きしか見せなかった。

 だから自分の敵にもならないそれ以下の存在。

 それはティルローゼを満足させる程であった。

 だが、今朝方騒動が起こった。何を間違ったのかアルラティア国の姫があのシュッセル国の姫に暗殺者を放ったと言うのだ。

 一体、アルラティア国の姫が何故その様な暴挙に出たのかは分からない。ただ分かった事はライバルが一人減ったと言う認識のみ。

 しかし、何処か腑に落ちないと言うのもまた事実。

 何よりあの姫はあの姉妹の妹なのだ。警戒するに越した事は無い。

 それもこのパーティで、晩餐会と何ら変わらない姿をした姫を見て失せたが。

 自分が皇帝陛下の后に選ばれれば何よりもあの鼻につく姉妹を此方が見下す事が出来るのだ。それはとても甘美なもの。それに思いを馳せながら皇帝陛下の登場を待ち構えていた。自分の敵などこの場所にはいない。

(私には”力”もありますもの、美貌だけが取り柄の輩等取るに足らない存在ですわ)

 他者には負けない力。格が違うのだ。

 そうして優越感に浸りながらあのイリア姫と視線が合う。

 晩餐会の時と同じ男物の質素な服に身を包み、片手に飲み物を持ちながら、壁際で侍女と共に背を預けている。そんな彼女に悠然と微笑むと皇帝陛下が自分を見付けやすい様に、姿を現す中央の玉座に近い場所へと取り巻きを引き連れ向かった。







 
’10・07・25


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