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魔法剣士の姫君(旧作)25
2011-08-23 Tue 01:08
 この世界にはありとあらゆる場所に多種多様な種族が存在している。

 人間にとって…いや、王侯貴族達から一番身近に感じる種族は皇帝が盟約を結んでいる龍族であろう。それ以外にも森の住人で、争い事を好まぬ人間に最も近い姿形をしているが、類稀なる美貌を持ち、長命を持つ種族エルフ族。他にも妖精や精霊と滅多に人間の前に姿を現す事の無い種族。他にも多種多様な種族が存在するが、それは外見が人間に近い為、多くの街で人間達と交じり合って生活をしている。

 そんな世界の中でも畏怖べき存在。それは魔の者。

 闇よりいでしその存在は人々に恐怖と絶望を与え、その時に出来たその感情とそして発した人間の魂を食とする者達。

 魔術を扱う術者が禁止されている行為はこう言った魔の者を呼び出す行為。彼らは命を対価として必ず報奨を求める。術式すら禁術として書物は全て廃棄してある。

 彼等が地上に来る事は滅多に無い。何故ならば彼らにとって日の光は正に毒と言っても過言では無いからだ。

 それは上位に居る魔の者達になればなる程顕著になると言って良いだろう。

 だが、下位に居る魔の者達の中には堂々と人間達が通る道へと徘徊する。その者達は魔物と呼ばれ、弱い者ならば殺されてしまう。



 そうして今のこの世界は成り立っている。



 イリアは朝の騒ぎが一段落すると王宮の書庫室に向かった。

 それは先程、騒ぎの折に気になったあの禍々しい気配を纏った視線の為だった。

 過去に一度だけ体験した覚えのある気配。魔の者独特の禍々しい気配だ。それを薄っすらとではあるが感じ取った為、彼等について今一度調べ様とやって来たのだ。

 騒ぎの後始末にはリンディとエクレアに周ってもらっている。

 だからこの部屋に居るのは書庫の番人の老人とイリアだけだ。

 イリアは挨拶もそこそこに目的の書物を見つけると、それを読みふけっていた。

 どの書物を漁ってもやはり魔の者についての明確な詳細を載せている物は無い。それは仕方が無い。ほぼ憶測でしか書かれている物なのだ。研究者とて彼らの生態を僅かな手がかりから探るだけでしかない。

 圧倒的に魔の者についての記述が少ないのは致し方が無い事だった。

(だが、今回はそうも行かぬ……。あの時に見たあのセリア姫の様子は明らかに尋常じゃ無かった。それにあの忌々しい気配…そう遠くない場所に魔の者がいる…)

 しかし、此処は世界に誇る皇帝の宮廷内。龍の加護たる結界は街全体を覆い、更に城には名だたる術者達が幾重にも貼った結界がある。たいていの魔物では街の結界に焼き切られる筈だ。だが、魔の者は入り込んでいる。しかも龍の加護たる結界をも擦り抜けて、更には城内にまで。これは間違いない。気配を感じたのも城内の範囲内だ。だとするとかなり不味い事態では無いだろうか。

 これはどう判断すべきか。

 小さな小国の姫でしかない自分の意見が皇帝の耳にまで届くとは思えない。

 だが、確実に不味い事態は進行している。

 セリア姫のあれはほんの序章に過ぎない。

 そう思えてならなかった。







「随分と悩まれているご様子ですな…」

 その声にハッとして顔を上げればそこには見知った書庫の管理人の老人の顔があった。しわくちゃの顔を微笑ませている。

「どれ、少々お疲れの様じゃな。お茶をご馳走しよう。さすればその疲れも幾分かは取れるじゃろうて」

「ご迷惑をお掛けして申し訳ありません」

「なになに。じじいの余計なお世話じゃ。そう畏まらんでもええ」

 イリアは老人の行為に甘え、出していた書物を元の場所に戻すと、何時もお茶を飲んでいる場所へと移動する。するとイリアの鼻腔を爽やかな香りが擽る。

「じじい特性のハーブティーじゃ」

「ご馳走になります」

 そう言うとうんうんと嬉しげに老人は頷く。

 カップを口に付けると鼻と口一杯に爽やかなミントの香りが広がった。そこに微かにラベンダーの香りもするので、老人の手製なのだろう。絶妙に配合されたそれは美味しかった。それと同時に肩から力が抜ける。どうやら相当集中していた様だ。

 そんなイリアの様子を暫く見守って老人が言葉を紡いだ。

「お顔が随分と緩やかになられましたな」

「はい。このハーブティーのお陰で。素晴らしい配合ですね。是非お教え頂きたいです」

「ほっほっほ。それはまた今度お教えしましょう…。しかし、お前さんの様な方をそこまでの表情にさせる何かが御座いましたかな?」

 何でしたらこのしがない老人に教えて貰えぬだろうかと、言われイリアは一瞬考え込むが、自分ばかりがこの事を知っていてはいけない。何より、彼はこの国の住人だ。

「分かりました…。今朝起こった事から始まりますが……」

 そうしてイリアは老人に今朝の姫の様子とその背後に感じた禍々しい気配の事等を話した。

 老人はイリアの話を黙って聞いていた。その表情は最初と変わらず穏やかだ。だが、話が進むにつれ、少しだけ難しい表情となっていた。

「ふむ……。魔の者か…。これもまた懐かしい響きじゃな。以前姿を現したのは十年前じゃったかの……。それ以来、とんと聞かんかったが……」

 そこではて…と老人が首を傾げる。

「お前さんは、まだまだ若く見えるがのぉ…。そのお前さんが魔の者の気配を知っておるとは…」

 その言葉にイリアは苦笑する。

「…十年前、丁度その戦場にいたんですよ。私の師と共に」

「なんと! それはまた豪快な姫君じゃ。ふむふむ成る程…。そうなると信憑性は十分じゃの。いや、それ以前にお前さんがそんな出鱈目な事を言う人物でも無い事は短い付き合いながら核心しておるがの」

「貴方はこの事をどう判断なされますか?」

 イリアは既にこの老人が只者では無いと言う事が分かっていた。だから敢えて聞いてみたのだ。

「わしがそう判断せずともそこの者が判断するじゃろうて……。のう?」

 その言葉と同時に人の気配を感じ、イリアは後ろを振り向き、驚きに微かに目を見開く。その場所にはデュオがいた。イリアに気配を此処まで感じさせずにいたのだから無理も無い。

「老公は相変わらず聡い方だ」

「ほっほっほ。伊達に長生きはしとりゃーせんよ。わしとこの姫さんの話を聞いていたじゃろ?」

「ああ」

「お前さんはどう思う?」

 問われ、デュオは考え込む。だが、その時間は短かった。すぐに顔を上げ、老人を見やり、そしてイリアの方を向く。

「イリア殿は索敵系の魔法はどの位まで使える?」

 問われた意味を瞬時に理解し、イリアは隠す事無く、話す。

「そうですね。この帝国城から探れと言われれば海の向こうまで探れますよ。ただし、この帝国の様な防御壁が存在する所は相手に察知される可能性がある為しませんが」

「そう言うと言う事はかなりの広範囲に渡ってか……。此処までの索敵魔法を操れる者を見たのは始めてだ」

「弱点も多々ありますから、私は好んで使いませんが」

「成る程。昨夜のあれの力と言い、それ程の力があれば先程言っていた魔の者気配の件は嘘では無いだろう。索敵に優れた者は気配に敏感だからな」

「それではこの話を信じて下さる…と?」

 イリアが問うとデュオは頷く。

「ああ。しかし魔の者がこの城に入り込んでいるのには驚かされた。この城は龍族によって特に守護の結界が強くしかれている。当然、それなりの魔術師による結界も。だがそれに察知されていないと言う事はかなりの実力を持った高位の魔の者に違いない」

「ほーう。此処十年姿を現さなかった魔の者か……。何が目的でこの城に入り込んだのじゃろうなぁ」

 その老人の言葉にイリアとデュオは顔を見合わせる。

「今回の皇帝陛下の后選定の儀が狙い……?」

「それしか思いつかんな。イリア姫の話を聞くと、既に被害者とも言うべき者まで出ている。この選定には色々思惑が渦巻くからな。負の情念が集まりやすい。そこを餌として目を付けたのかも知れん」

 言いながらデュオはため息を吐いた。

「デュオ坊。お前さんはこれをどう静める? 魔の者に対抗出来そうな者など前皇帝と前王妃… …もしくは現皇帝陛下………それにイリア姫だけでしょうなぁ」

 その老人の言葉にイリアは目を見開く。

「ほほ。驚かずとも良いでは無いか。ワシは年を取ってはいても、人を見る目は十分にあるつもりじゃよ。姫さんはその体に内包する魔力がどの者達よりも桁外れじゃ。だから魔の者も感知出来たのだろうからのお」

「そこまで視えていましたか」

 老人の言葉にイリアは苦笑を浮かべる。

 きっと彼がいっているのはイリアの体の中にいるカタナの力の事だろう。そして桁外れの魔力は大半それが発しているものであるが、それを扱うイリアの魔力も桁外れなのだ。扱う者にこの魔力がなければ、一般の魔術師など持っただけですぐに昏倒してしまうだろう。

 だからイリアはその桁外れの魔力を内包するお陰でカタナを昏倒する事無く、また自在に使えるのだから。

 祖父と祖父の側近で魔術者でもあった己のもう一人の魔術の師匠が言っていた事を思い出す。

 イリアはシュッセル国王族の中でも先祖返りの血が色濃く出ていると。

 それにシュッセル国を建国した最初の主と性別は違えど顔の造形が一緒なのだと言う。それ以外にもその建国した主と同じくシュッセル国の宝刀を身に宿す事が出来、更には莫大な魔力を持ち、文武両道に長けた所までそっくりだというのだ。

 普段では使う所が無く、それに加えて、この国に来るまで魔力を使って発散さる事も出来なかった為に、体内に魔力が満タン状態でいるのだ。

 これが見えたと言う事は老人は魔術に長けた人間なのかも知れない。もしかしたら賢者と呼ぶべき人物なのではなかろうか。

 そう考えてからイリアは老人を見やった。すると老人もイリアを見やる。先に口を開いたのは老人の方だった。

「安心召されよ。この事はこのじじぃとデュオ坊だけの胸に秘めて置くつもりじゃ。のう、デュオ坊」

「ああ。だが、今回の騒動に他国の姫であるイリア殿にお願いするのは少々頂けないが、他の者達を守る為にもそうも言っていられない。イリア殿、今回の件で貴方に力を貸して欲しい」

 デュオの言葉にイリアは頷いた。







 
’10・07・25


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