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魔法剣士の姫君(旧作)19
2011-08-23 Tue 01:05
 外の騒ぎが治まるのを見ながらイリアは顔を誰もいない壁に向かって声を掛ける。

「……隠れて無いで出て来たらどうだ」

 同時に食堂の厚い壁が爆音と共に崩される。それは攻撃魔法の様だ。

 周囲の人々から悲鳴があがる。噴煙が巻き上がり、逃げ惑う人々の尻目に崩れた壁から碧眼の男が姿を現した。

「やっぱり気が付いてやがったか」

 にやりとその表情は愉悦に満ちている。ジルザール・ジルベック。今回の盗賊団襲撃の頭たる男だ。

「やけに手間の掛かる事をしているな」

「俺は金品に興味は無かった。だが、今回はお前がこの街にいたからな」

「…………」

 そう言ってジルザールは剣をイリアに向ける。

「あの時以来、もう一度会って見たかったぜ」

 そして笑みを深める。

「今度こそお前と剣を合わせて見たいとなっ!!」

 言いながらジルザールは剣を振り上げてイリアに襲い掛かる。

「……本当にお前は手間が掛かりそうな奴だな」

「最高の褒め言葉だ」

 剣を避けながら面倒そうにイリアが呟くのをジルザールは楽しそうに笑う。そこにジルザールめがけて複数のナイフが放たれる。ジルザールはそれを持っていた剣で素早く叩き落す。

「これ以上イリアに近寄らないで」

「本当。しつこい男は嫌われるよ~」

 それぞれ短刀とクナイと呼ばれるシュッセル独特の武器を構えながらリンディとエクレアはイリアを守る様にして二人の間に入り込み、ジルザールを睨み付ける。

「何だ。お前達も遊んで欲しいのか? まあ、骨のありそうな奴ならどんな奴でも大歓迎だけどな……ん? その武器珍しいじゃねぇか。成る程お前達はシュッセルの奴らだな」

 リンディとエクレアの武器を見て、ジルザールはイリア達の出身国を言い当てる。

「武器マニア?」

「オタク?」

 二人が揃ってジルザールをそう評す。

「…? シュッセルの言葉は独特だな」

 が、武器は知っていてもジルザールにはシュッセル国独特の単語は知らなかった様だ。

 緊張感のある場面な筈なのに何とも気の抜ける会話。

「ま、良い。お前等から相手して貰おうか」

 次の瞬間ジザールは剣を構えて走り出す。その速度は先程以上に速い。

「?!」

「!」

 ジザールに間合いを詰められ、リンディとエクレアは即座に反応を返し、短刀やクナイで剣を受け止める。

「~~~っ! 何て馬鹿力なの~~~」

「あ~ん。正面切っての戦闘って私向きじゃない~」

 等と言いながらもジルザールの攻撃を完璧に読んでいる二人は周囲の者達にとって驚愕物だった。

 普通の外見をした少女達があの帝国で指名手配犯で未だ捕まった事が無い程の実力を持ったあのジルザールと対等に戦っているのだから。しかも背後に一人の少女を守りながら。

 そして何より背後で守られている少女は目の前で起こっている戦闘に恐れる様子を見せずに淡々と腕を組みながら様子を見ている。一体何者なのだろうかと言う思いを周囲の人間達に抱かせた。

「成る程…確かにやる……だが…」

「っ?!」

「きゃっ!」

 ジルザールの剣の威力に押されて、二人の体が軽く吹き飛ぶ。が、二人は何とか堪えながら体制を保つ。

「まだ弱いな」

 余裕の笑みを浮かべてジルザールは二人を見やった。

「………ならこれはどうだ?」

 そこで今まで冷静に事の成り行きを見守っていたイリアが片手を上げる。

『風よ…。その速さを持って威力とならん』

 言葉と同時にリンディとエクレアの体が淡く緑色に光る。その光景に男の顔は更に笑みを増す。

「魔法か」

 イリアが放った魔法は補助魔法と呼ばれる部類の物だ。

 その中でも風属性の物は人の速さや防御力を上げたり、時には回復魔法として優れた物だ。

 リンディとエクレアに掛けた魔法は速さを上げる補助魔法。イリアは二人とジルザールの戦いを見て、二人の速さを上げる判断したのだ。

 イリアの補助を受け、リンディとエクレアの動きが今まで以上に早くなる。

「へえ、これまた楽しい事をしてくれるな」

 だが、ジルザールの余裕の笑みは深くなるばかりだ。そればかりか先程よりもより好戦的な笑みを浮かべている。

(この男…。想像以上に強いな)

 補助魔法は掛けれど万能ではない。相手の技量が上であればある程補助魔法の効果は薄いと言える。徐々にリンディとエクレアが押され始めていた。

 イリアは考え始めていた。これは己自らが相手をするべきかと。

 だが、此処には物陰に隠れて怯える一般市民がいる。

 この場で本当の自分の力を出して良いものか。けれど迷う暇は無い。

 そう判断を下し、リンディとエクレアに下がる様に命を下そうと手を上げ掛けた。

「おいおい、折角の良い場所で暴れるなよな」

「全くだ」

 リンディとエクレアに襲い掛かる筈だった剣は新たに現れた剣によって弾かれた。

「! ちっ!! また貴様らかよ」

「デュオさん?!」

「クノーラさん!!」

「よう、姫さん達大丈夫か?」

 表の盗賊達を倒し終えたデュオとクノーラが二人に当たる筈だった攻撃を剣と槍で弾いたのだ。

「デュオ殿、クノーラ殿」

「ジルザールの奴の気配を感じてな」

「急いで戻って来たって訳。しっかし、また姫さん狙ってたってのには驚いたな」

 クノーラの言葉にジルザールは舌を再び打つ。

「ったく。何時も何時もいい所で近衛師団の連中は邪魔をしてくれるなぁ…」

「そう言われても困るな」

「そうそう。姫さんは大事なお客様だからな。お前なんかのお相手させる様なお人じゃねーのよ」

「はん。成る程。お前達のその物言いだとそこの女はシュッセル国の王族か」

「あ、やべぇ…」

「クノーラ……」

 余計な事に気が付いたジルザールの言葉にクノーラは慌てて口を手で覆う。そんなクノーラにデュオは呆れた顔をする。

 その様子を見てジルザールは突如やる気が失せた様に剣を下げた。

「あーあ此処までか。けど良い情報は入ったから良しとするか。…だがあの国に三人目の姫が居たとはな。初めて知ったぜ」

 言いながらイリアを見る。イリアもそんなジルザールを無表情に見返す。

「……だったら何だと言う?」

「別に。ま、今日は此処までだ。部下の奴らも捕まった奴が多いみたいだしな」

「逃がすと思うか?」

 クノーラとデュオは油断無く剣を構える。が、ジルザールはそんな二人の等気にした様子も無く言葉を続ける。

「次はお前に相手して貰える事を祈るぜ」

 懐から何かを取り出し、それを思い切り床にぶつける。

「! 待てっ!!」

 だが、それは白い煙を周囲に撒き散らし、ジルザールの姿をも覆い隠す。

(煙幕か…)

 此処に来てまさか自国の物を目にするとは思わなかった。煙幕はシュッセルに逃走を確保する時に使われる物だ。特殊な技術が必要で、シュッセル国以外で作る技術を持っていない代物だ。ジルザールが持っているとは思わなかった。

 いや、ジルザールは盗賊の頭だ。以前シュッセルの者から奪い取った物かもしれない。

 煙は周囲まで達し、暫くして煙が落ち着くと、ジルザールの姿は無かった。

 また逃げられた様だ。盗賊はやはり逃げ足も速い。

「…逃がしたか」

「ちくしょう…。またやられた…!!」

 デュオとクノーラは悔しそうな表情で剣と槍を収める。

「お前達は大丈夫か?」

「すまねぇ…。俺の失敗でジルザールの奴にあんた達の正体教えちまった」

 クノーラの言葉にイリアは首を左右に振る。

「いいえ。また助けて頂きまして感謝しております。あいつに私の正体が知れた所でどうと言う事は無いですし」

 イリアがそう言い返すが未だにクノーラは申し訳無さそうな顔をしていた。

「本当にすまねぇな。今日の所は部下に城まで送らせる。俺達は被害状況も調べなきゃなんねーし動けそうにねーからな」

「お手数お掛けして申し訳ありません」

 こうしてイリア達の城下街観光は終わりを告げる事となった。









 
’10・02・20


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