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魔法剣士の姫君(旧作)18
2011-08-23 Tue 01:03
 食堂は大きな店で、旅人用の馬が括り付けられる場所も完備しており、外にいながらも中から陽気な人々の声が溢れ出ている。クノーラの薦める店だけあって評判の良い店だと言う事もすぐに分かる。

 中に入ると人々の活気に溢れた声に負けない声が掛けられる。

「いらっしゃい! あら、クノーラ!! 来てくれたのね!」

「おう! 今日は連れが三人いるけど席はまだあるか?」

「あらあら、可愛いお嬢さん方じゃないか! ちょうど一テーブル空いているよ! お嬢さん方もゆっくりしていってね!!」

「有難う御座います」

 声を掛けて来たのは恰幅の良い婦人で、どうやらここのおかみの様だ。

「騒がしい所だけですまねぇな。けど味も価格も保障するぜ」

「いいえ。こう言う所で本当に有難い」

「そうよね」

「うんうん。こう言う雰囲気のお店久しぶり~」

 リンディとエクレアも満足した様子で店内を見回しながら席へと向かう。その途中、クノーラはやはり顔見知りが多いのか多くの人々に声を掛けられていた。

 それらに軽く返しながらクノーラは席へと向かう。

 と、いきなりクノーラの歩みがピタリと止まる。

「? どうかしましたか?」

 不思議に思ってイリアが尋ねる。そしてクノーラの視線の先を見やるとそこには…以前にも出会ったクノーラと同様の近衛師団の服装に身を包んでいたデュオと名乗った人物だった。

 今日は質素な身なりをしており、見た限りでは非番の日なのだろう。デュオの周りを囲んでいる者達にも見覚えがあった。クノーラ達と一緒にいた部下達だ。そんな彼らが此処にいる。

 イリア達は近衛師団の御用達でもあるお店なのかと関心していたが、急に立ち止まったかと思ったクノーラは勢い良くデュオの首に腕を掛けると店の端っこにまで行ってしまった。

 その間、クノーラ達の部下と思われる人物達の不思議な行動。皆、一様に申し訳無いと言った表情をクノーラに向けていたのが印象的だった。その間もボソボソと小さい声ながらも良く通る二人の声が微かに聞こえて来る。

「何でお前がこんな所にいんだよ!!」

「たまには良いじゃないか」

「しかも部下まで引っ張り出して」

「仕方が無いだろう」

「だあああぁっ!」

 涼しい顔で返すデュオにクノーラは終に叫び声を上げた。が、それは小さい声で、周りの活気の良い声に掻き消されて変な注目を浴びずに済んだ。

 そこで叫んでハッと気が付いた様にクノーラはデュオを見やる。

「…何かあったか?」

「お前が出掛けた後に報告があってな。ガセネタかも知れないが、例の盗賊団が今日の夜当たりにこの辺に出没すると言う」

「マジかよっ?」

 その言葉にアチャーっとクノーラが額に手を当てる。

「盗賊?」

 聞こえた単語にイリア達は眉を顰める。

 それに気が付いたのかデュオはクノーラの行動からイリア達に視線を向け直す。

「そうだ。お前達も会っただろう? ジルザール・ジルベック。前回の討伐の際、追っ手をやったのだが、取り逃がしてしまったのだ。そいつが今度も大勢の手下を連れてやって来ると言う情報が入った」

「ああ。あの手配犯ですか」

「消息が中々掴めなかったんだがな。漸く此処に来て帝都に来たと言う情報を掴んだんだ」

「成る程。あいつ程の腕なら追っ手を撒くなど簡単でしょうね」

「そう言う訳だ。それで俺達は一般市民に紛れて警戒中なんだ」

「ちょ?! 俺の事無視して勝手に話進めんな!」

 デュオとイリアが淡々と言葉を交わしていると漸くクノーラが口を挟む。

「すみません。…でしたら私達も戻った方が良いでしょうね。邪魔にはなりたくありませんし」

 言いながらイリアはリンディとエクレアに視線を向ける。二人もそれぞれに頷く。

「話は聞いている。お前達はシュッセル国の者だったな。こちらの不手際で二度も巻き込む訳にはいかないからな」

「……最初は囮にする気満々だった癖に…」

 デュオの隣で彼にしか聞こえない音量でボソリとクノーラが呟くが、デュオはその声をさらりと無視する。

「それもそうですね……。しかし…遅かった様です」

 イリアが呟いたと同時に店の外から悲鳴が響き渡った。

 その声につられて店内に居た者達も何事かと外の方に視線を向けている。窓の外では逃げ惑う人々の姿と悲鳴が木霊している。

「…随分早いお出ましだな」

「悠長な事言ってる場合か?! ったくしょうがねぇなっ! お前ら市民の誘導を最優先に守りながら戦え!」

「はいっ!」

 クノーラが指示を飛ばすとクノーラの部下達はそれぞれに剣を持ち、外へと向かう。

 デュオとクノーラの二人も既に剣を持っている。

「姫さん達! 悪いけど此処にいてくれ! 店内にいれば安全な筈だから!」

「分かりました」

「クノーラ行くぞ」

 そう言って二人も店内から出て行く。

「大丈夫かしら?」

「近衛師団の人達も強いから大丈夫だよ」

 リンディとエクレアはそう言いながらイリアを見やる。

「…私達は暫く此処で様子を見よう。他国の事に手を出す訳にはいかないからな」

 その言葉に二人も頷いた。

 それを見てからイリアはまた窓の外に視線を向けた。この事態を見届ける為に。









「ちっ! 数が多いな!! おい、お前等! 民に被害がいかねー様に気を付けろよ!」

 声を張り上げながらクノーラは部下に指示を下す。その間も魔術によって取り出した己の武器で向かってくる盗賊を切り捨てる。その横ではデュオも長剣でもって数人を一気に切り伏せていた。

「なかなかに盛況な奴等だな」

「お前ね~。……ったく…偶然もこんなに重なれば見事なもんだぜ」

 チラリとイリア達がいる店を見やる。

「確かにな…。しかし…」

 デュオは向かってくる盗賊を切り捨てながら周囲を見回す。

「ジルザールの気配が見当たらない…」

「確かに。此処に居るのは雑魚ばっかりだな」

「だが、奴も確実に来ている」

 言いながら周りの盗賊団が見えなくなると自分達の周りに倒れた盗賊共を縛り上げる。血を流しているが、死んではいない。気絶しているだけだ。

「この周囲は片付いた…」

 そう言い掛けた時、再び悲鳴が上がる。その場所は先程までいた食堂の中からだ。

「?! この気配!!」

「ジルザールが現れたか!」

 二人は一目散に食堂へ向かった。







 
’10・02・19


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