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魔法剣士の姫君(旧作)15
2011-08-22 Mon 01:48
 書庫内の蔵書の数にイリアは心躍らせていた。

 こんなに楽しい気持ちになったのは久しぶりかも知れない。自分の読んだ事の無い書物か膨大にあり流石帝国とイリアは感心しきりだった。

 時間など幾らあっても足りない。

 それに学者や魔術師と言った者達も出入りしているがそう頻繁に出はない。殆ど三人と書庫の管理人の貸し切りと言ってもいい状態だ。

 掃除も隅々まで行き届いており、この場でくつろいで読める場所まで存在する。

 これが自国であれば、イリアはこの場所に住み込んでも構わないと思わせる程心地良い場所だった。それに此処にいれば外の煩わしい音も聞こえない。他国の姫がこの場所に訪れないであろう事は予想も出来る。

 これ程までに良い場所は無い。

 もし、城下に降りれらなくても構わない。

 そう思わせる程だった。

 リンディとエクレアの二人もイリアとどう意見なのか、熱心に書物を見ている。

 イリアの書物は国々に伝わる伝記や歴史書その他に珍しい魔導書や医術書等でリンディは伝説や普通の娯楽書籍、エクレアはお菓子のレシピ集が主に目立っていたがその間に所々貴方の知らない世界や、これで貴方も呪いのエキスパート等と言った怪しい書籍が混じっていたが知らない振りをした。

 そうして三人は日が暮れて、夜も更けるまで書庫室での時間を堪能したのだった。

 何冊か読み切れなかった分を書庫の管理人の許可を得て客室へと戻る。

 時間も時間で他国の姫とも遭遇する事無くイリア達は平穏な一日を過ごす事が出来た。渋々来た事もあったが、こう言う日々が続くのであれば来て正解だったかも知れない。

 そうして充実した一日が終わった。











「あれ…なんだあいつ…。相変わらず面白みのねぇ趣味してんなぁ…」

 帝国の城の上空で血の様に紅い瞳をした男がつまらなさそうに城の観察をしていた。男の背には蝙蝠の羽の様な形をした大きな羽根が羽ばたきもせずに自己主張している。

「でも…この城…。あいつもいんのか…。益々面白い事になってんじゃねぇか」

 だが、男はすぐさまその表情に笑みを浮かべさせる。

「それに此処…憎悪、嫌悪そう言った醜い感情に溢れてて鬱陶しいなぁ…。やっぱり人間種族は愚かな奴等ばかりだ」

 ふんっと鼻を鳴らすと男は一人の女に目を付ける。

「だったら…。もっと面白い事を起こせばあいつとも会えるかな?」

 そうしてもう一度女を見る。

「利用させて貰うぜ」

 そう言った男の姿はその場から掻き消えた。











 イリアにとっては充実した日々が過ぎ去る。

 だが、それに比例して日を追う事に離宮内の騒々しさが増していた。

 各国の牽制合戦が次第に躊躇になって来ているのだ。

 それと言うのも肝心の皇帝陛下が姿を現す所か書簡の一通すら何処の国にも寄越さないと言うからだ。それに各国が躍起になっている。だから騒々しい。

 それが各々の主人たる姫君の機嫌を降下させている原因になっているのだから。これ以上主の機嫌を損ねるのは良くない。それが仕える者達には分かっている事だからこそ更に激しくなっている。

 だが、それでも皇帝側からは何の反応もない。

 リンディとエクレアの情報収集によると他国の書簡も嘆願もラドルフ摂政の所で差し止められているらしい。一体何を考えているのか。帝国側から招集を掛けた様なものなのにこう言う態度に出ると言うのは。

「さて…何を考えているのやら…」

 誰にともなく呟いたイリアの言葉に反応した者がいた。

「おや、何か仰ったかの?」

「いえ、何でもありません」

 書庫の管理人の老人だ。今はイリアは老人と二人きりだ。リンディとエクレアは取り敢えずと言う形で他国の様子を見に行かせている。

「外の騒がしさがお嬢さんの悩みの種かの」

 まあ、茶でも飲んで落ち着きなされ…。そう言われて、老人の淹れた紅茶が目の前に置かれる。

本来書庫では御法度の物だが、老人はイリアが気に入ったのかこうして紅茶を振る舞ってくれるのだ。それがたいそう美味い。

「有り難う御座います」

 イリアは礼を言って紅茶に口を付ける。口の中に紅茶の香りが広がる。

「相変わらず貴方の淹れて下さった紅茶は美味しいですね」

「ほっほ。何、隠居じじいの密かな楽しみですじゃ。」

「勿体ない位ですよ」

「それは有り難い事ですじゃ…。最近は外も騒がしい。お陰で他の者達も離宮に近付く事をせんのでの」

「ええ。皇帝陛下側が何の反応を見せないので、各国が躍起になっているんですよ。書庫を利用する者達にとっても偉い迷惑です」

「何をやっておるのかのう、イシュ坊は」

「皇帝陛下の考えは分かりませんよ」

「確かにの」

 イリアの感情を読み取ったのだろう。しわくちゃの顔を更にしわくちゃにし、笑いながら答える。

「イシュ坊が産まれた時から知っておる。大方、この騒動には感心が無いのじゃろうな。まだまだ子供じゃて。ああ、じゃがそう言えばお前さんはイシュ坊の后候補じゃなかったかの」

「確かに候補の一人ですが」

「お前さんは会いたくないのかの」

 老人の質問はもっともだ。

「別段、お会いする必要性も感じませんので。私は以前もお教えした通り、后の座を狙う為に来た訳では無いのです」

 垂直な感想にますます老人は笑みを深める。

「変わった姫さんじゃのぉ……」

「良く言われます」

 そうすると老人は声を立てて笑った。

「ほっほっほ。その言葉をイシュ坊に聞かせてやりたいのぉ。きっと喜ぶでの」

「そうですか?」

 それはかなり変わった皇帝陛下なのかも知れない。自分も変わり者だと言う自覚はあるが、当の皇帝陛下も変わり者と言う事は少しばかり興味が惹かれる。…が、それだけだ。

「………まあ、何もせずとも星は巡り会うものじゃて」

 イリアには老人の呟いた言葉は聞こえなかった。







 
’09・10・17


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