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魔法剣士の姫君(旧作)12
2011-08-22 Mon 01:46
 程良く休憩してから浴室の準備が告げられ、イリアは立ち上がると一人浴室へと向かった。

 文化の違う国ではあったが、つい数週間前に立ち寄った街が温泉街だった事からか帝国浴室には湯船とシャワーが別々に設置されていた。

 風呂に入る事は一人でも出来る。

 文化の違いもあるかも知れないが、他国の姫など侍女を大勢侍らせて風呂に入る者もいるそうで何でもかんでも人任せとはやはりイリアには理解出来ない事であった。

 素早く服を脱ぎ捨て、浴室の戸を閉める。

 出て来る頃にはリンディかエクレアのどちらかが新しい着替えを用意してくれている事だろう。浴室内には高級品と分かる洗髪剤やら石鹸などが揃っていてやはり気配りが行き届いている。

 シャワーの蛇口を捻るとイリアは頭から一気に湯を浴びると、漸く肩の力を抜いた。暫くぶりの湯の温かさを楽しむ。そしてフッと目の前に湯煙で曇る鏡に自分の姿が映し出されているのに気が付く。

 鏡の中の自分は本来の色とは違う色を纏っている。

「…忘れない内に解いて置くか…」

 そう呟いた瞬間、イリアの体が淡く光ったかと思うと肩口から湯と一緒に滑り落ちる髪とそして瞳の色はシュッセル国王族直系の証たる水色に戻った。

「やはり目立つな」

 言いながらイリアは洗髪剤へと手を伸ばし始めた。







 髪を魔法で瞬時に乾かし、新しく用意された着替えに袖を通して二人がいるであろう部屋へと戻る。久々の風呂で体も清潔になり、良い気分だ。此処が帝国の城の客室と言う事を除けば。

「あ、上がったのね」

「ああ」

「じゃ、リンディちゃん、次に入って来ちゃって良いよ~」

「悪いわね」

 二人は旅の荷物を片付け終え、居間の方のソファに座りながら紙に何かを書き込んでいた。リストを目で追って行くと食用やら日用品やらなので、どちらかがこれから暫くの間、この部屋に滞在する期間必要な物を買い出しに行くつもりなのだろう。

 さっと話し合うとリンディは席を離れ、その変わり座ったイリアの前にエクレアが新しく入れた紅茶を置く。

「髪の毛の変化魔法解いたんだね。その色見るのかなり久しぶりかも~」

「そうか? しかし…やはり派手な髪の色に変わりは無いな」

 髪を乾かしたと言っても梳かしたりした訳では無い。今は後ろ髪を一括りにしている訳でもない。イリアの髪はほぼ真っ直ぐで、さらさらと絹糸の様に流れる。水色と言う事もあり更に不思議な色味を帯びている気がした。

「確かに身分証明にはばっちりなっちゃうかも知れないけれど、そんなに気にしなくても良いと思うよ~。私もリンディちゃんもイリアちゃんの髪の色好きだもの」

「…身分証明にこれ程なりやすいのもどうかと思うがな」

 そう言ってイリアはため息を吐き、エクレアはきゃらきゃらと笑う。

 自分の容姿等には殆ど興味は無かった。

 幼い頃より、イリアは良く上の姉二人と比較され続けていた。外見ばかりを気にしていた者達はこぞってイリアがいない場所で悪辣に満ちた台詞を吐いているのを知っている。彼等は何故上二人のどちらかに自分の水色の髪が現れなかったのかを大いに嘆いていた。

 その癖、自分を前にすると媚びへつらった台詞を堂々と吐く。

 その変わり身の早さには感心するがうんざりもした。

 幼くてもその彼等の言葉の意味を理解していたイリアにとって、幼い頃は牢獄に押し込められて気がしていたのだ。幼い頃はまだ自由に外に出て気晴らしもままならなかった。その度に大きな部屋にあった大きな窓の外に広がる青空には良く憧れを抱いた。

 容姿に興味など無かったが…この時程自分の髪の色に嫌気をさしていた頃も無かった様に思う。

 もし、自分がこの髪の色を受け継がなければもっと違った道があっただろうか。

 それとも周りの者達が言っている言葉が理解できない程であれば違ったのだろうか。

 どちらにしてもそれは有り得ない道だ。

 きっと、髪の色を抜かしても自分は国民の為に何かをしていたに違いないし、理解出来なくても自分に好意など持たれないとは分かっていたに違いない。

 冷めた子供だったと思う。

 イリアは一日も早く牢獄に似た城からそして嫌う立場から逃れたくて必死に勉強し隠れて魔法や剣術を習いだしたのも丁度その頃だった。

 勉強や剣術等を習っている間は周りの雑念等どうでも良くなる位だった。

 そんなイリアの性格を一番良く理解していたのは父王でも無く母王妃でも無かった。

 祖父であった前国王。

 同じ髪の色を持ち、同じ様な道を辿って来た人だった。

 一番のイリアの理解者。

 剣術や魔法の拾得に手を貸してくれたのも祖父だ。こっそりと自分付きの剣士と魔術師を紹介してくれ、彼等に師事してイリアは腕を磨いて行った。

 そして祖父が旅に出ると言い出した時にはイリアも一緒に連れ出してくれたのだ。

 期限付きであったが、その頃の自由な時間は本当に得難い物だった。

 そんな祖父達とは途中で別れ、自分はリンディとエクレアと共に国に戻り今の地位まで必死に辿り着いたのだ。

 国の多くの者達はこの髪の色を尊ぶ者が多い。それは建国の主初代国王と同じ髪の色だから。ただそれだけで有り難がる。それが悪い事とは思わない。だが、イリアにはそこまでこの髪の色に思い入れが無かった。

 その違いだ。

 ただ目立つだけの髪の色。そんな思いしかイリアには無かった。

 しかし、リンディとエクレアは自分の本当の思いを知っても、イリアの髪の色が好きだと言う。国の特徴を抜いても純粋な感想で二人は言うのだ。

 祖父以外での理解者がリンディとエクレアの二人。

 自分の本当に気持ちを理解してくれる者がいるだけでイリアは幸せなのだ。それ以上を望んで何になると言うのだろうか。

(…祖父達は元気だろうか)

 フッとそんな思いが頭の片隅に過ぎる。

 国を両親に完全に任せると祖父達は好き勝手に大陸中を移動しては目的のない自由気ままな旅をしている筈だ。それはイリアが別れた後もそして今現在も同じだった。

 時たまに祖父からの手紙にはそう記されていた。

 そんな祖父達が今の自分の現状を知ったらどう思うだろうか。

(…喜び半分、笑い転げる半分と言う所か…)

 知った時の祖父達の反応とその光景がありありと頭に浮かんだ。

 そして同時に浮かんだ自分の考え。

(早く国に帰りたいものだな…)

 ため息しか出なかった。







 
’09・10・04


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