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世界はもう一度巡る1
2012-04-11 Wed 00:45
「おーいこっちだ」

 駅の改札口を出ると聞き覚えのある声が聞こえて来た。

 そう、叔父の堂島の声。

「遅くなってすみません」

「いや、こっちも今来た所だ。気にするな。…しっかし写真で見たとおり、姉貴にそっくりだな。おまけに写真より美人だ」

 叔父の言葉に総子は複雑な思いだ。

 以前は男前と言われたが今度は美人…。嬉しいんだか悲しいんだか、いくら切り替えが早い総子でも本当はちょっぴり気にしていたりする。

「まあ、良い。俺が叔父の堂島遼太郎だ。赤ん坊の頃はお前のおしめも換えてやった事もあるんだが…月日が経つのも早いもんだ」

「ええ、母から聞いています」

「しっかし、両親揃って海外赴任でお前もこんな所まで来るとは大変だな。だが一年とは言え、こっちは俺と娘の菜々子しか居ない。気軽にしてくれ」

「はい。宜しくお願いします」

 と、そこでは堂島は何かに気が付いた。娘の菜々子だ。あの時と同じ様に菜々子はもじもじと堂島の後ろに隠れている。

「おい、菜々子?はは、何だ照れてるのか」

 堂島の言葉に菜々子はべしっとあの時と同じ様に父を後ろから叩く。

「いてっ。…まあ菜々子、お前には姉が出来たと思って良いんだ、喜べよ。これが家の菜々子だ。仲良くしてやってくれ」

 そう言われて菜々子はチラリと総子の方へと視線を向ける。微かな戸惑いを感じ取って総子は菜々子を安心させるべく菜々子の側へと寄ると、視線を合わせる様にしてしゃがみ込む。

 そして笑みを浮かべる。

「これから宜しく、菜々子」

 言われて菜々子はぱちくりと目を瞬きを一つ。そして菜々子は微かに頬を赤く染め、小さな声で返事が返って来た。

「よろしく、おねえちゃん…?」

「うん。それで良いよ」

 そう言うと菜々子の表情は一転してぱあっと明るくなる。

 そしてがばっと抱き着いて来る。

 この行動に総子は驚きに目を見開く。

 男の時はそれでもまだまだもじもじとしてまた堂島の後ろに隠れてしまっていた。それはきっと異性と言う事もあっただろうし、何よりかなり年も離れていたせいもあるだろう。

 それが今度はどうだ。年は離れていても同性。異性の時と違って同性と言う気安さも手伝ってなのか遠慮具合が違うのだろう。

 総子はそうか…性別の違いはこんな所でも現れるんだなと納得し、菜々子の頭を優しく撫でてやった。何とも微笑ましい姉妹が出来上がったのを堂島も何処と無く嬉しそうに見ている。

「まあ、こんな所では何だ。お前も疲れているだろうし、家まで行こう。向こうの方に車を停めてあるからな」

「はい」

 その言葉と共に微かに引かれる右手。そして伝わってくる暖かな体温。菜々子の小さな手だ。

「お姉ちゃん、行こう?」

「うん、そうだね」

 そうして三人は車が停めてある方へと歩き出した。











 車に乗り込んでから取り留めの無い話をしながら堂島家に向かう。

 その途中で、菜々子がもじもじとし出し、あの時と同じ様にガソリンスタンドへと入り込む。そして車から降りると、菜々子は店員に教えて貰った通りにトイレへと向かう。

 叔父もタバコを吸いに喫煙スペースへと向かってしまった。

 今度もガソリンスタンドの店員と二人きりになった。

 その店員は…。

 雨の日にしか姿を現さなかった店員。

「何処から来たの?君、高校生でしょう?」

「はい、高校生です。都会から来ました」

 同じ様な会話が繰り広げられる。

「ここって結構な田舎でしょう?何も無いところだし、やる事が殆ど無い位だ。君は高校生だからアルバイトできるよね?ここ、アルバイト募集しているから機会があったら入ってよ」

「はい」

 そしてあの時と同じ様に握手が交わされた。

 その時。

 ぐらりと一瞬視界がぶれる。と、同時に体内に何かが入り込んだ感覚に襲われる。

 この感覚には覚えがある。

 こうして店員と握手を交わした後、突如として眩暈に襲われた記憶があった。

「あ、しまった。仕事しないと。じゃ、バイトの件考えておいてね」

 そんな総子の様子に気が付かなかったかの様に店員は仕事に戻って行く。

 未だに軽い眩暈に襲われていたが、何とか持ち直す。と、そこへ菜々子がトイレから戻って来た。心配そうに声を掛けられる。

「お姉ちゃん、大丈夫?車酔い?」

 その声に軽く頭を振って大丈夫と答える。菜々子が心配しないように出来るだけ笑顔を作りながら。

 あの時もただ疲れが出たのかも知れないと思っていただけだが、どうも何かが違う気がする。頭の片隅で何かが引っ掛かっているが、それはモヤモヤとして姿を現さない。

 何ともすっきりしないまま、叔父も戻って来て、三人は車に乗り込むと今度こそ堂島家へと向かった。

 そんな去って行く車の後姿をガソリンスタンドの店員が目を細めながら見つめていた。











 堂島家に着くと、一息入れてから購入して来た、寿司でもってささやかな歓迎会が開かれる。が、やはり各々が寿司に手を出した直後に堂島の携帯が着信を告げる。用件は分かっている。叔父は仕事で呼び出しを受けたのだ。

「悪いな。仕事が入った。二人だけで寿司は食べていてくれ」

「帰り…遅いの?」

 菜々子が心配げに問いかける。

「すまん。明日の朝まで帰れないかも知れない」

「分かった…。お仕事、がんばってね」

「ああ。お前にも来て早々にすまないが菜々子の事を頼む」

「分かりました」

 その総子の返事を聞き、堂島は上着を引っ掴むと玄関へと向かう。

 雨が降り出していて、堂島が菜々子に洗濯物の事を聞くやり取りを目にしながら総子はため息を吐いた。

 そう言えば、この頃はまだ堂島も菜々子もお互いが何処か距離を計りかねている時期だった。自分も最初は小さな女の子との接し方が良く分からずに戸惑いもしたが、今は違う。

(ちゃんと、前の時と同じ様に二人の仲を取り持ってあげなきゃな)

「菜々子、叔父さんの仕事って?」

 知ってはいるが、一応話の切欠にと問いかけて見る。

「事件をおってるの。おとうさん、刑事…だから」

「そっか、菜々子は偉いね」

「え?」

 総子の言葉に菜々子はきょとんと目を見開く。

「お父さんがいなくてもずっと一人でお利巧にお留守番しているでしょう?寂しいのに、我慢してて偉いね」

「…おねえちゃん……。菜々子は平気だよ?おとうさんが忙しいの分かっているから」

「うん。けど今日からは俺も一緒だよ。菜々子の寂しさは少しは和らぐかな?」

 そう言うと菜々子の頬がまた赤く染まる。

「おねえちゃんは菜々子と居てくれる?」

「うん。出来る限りだけど、菜々子が寂しくない様に一緒に楽しく過ごそうね」

 そうして総子は微笑む。その微笑みは特定の仲間内にしか滅多に見せる事の無かった、綺麗でとてもやさしい表情。

「……うん!」

 そうして菜々子は総子に抱きつく。

 本当に男の時とは何もかもが違うな。

 けれど、こうなった事で少しでも菜々子が寂しく無いのであればそれはそれで良かったのかも知れない。自分はつくづく菜々子中心で動いていたんだな…と過去を振り返って見る。

「それじゃあ、お寿司食べよう?」

「そうだね」

 そしてぽつぽつまた会話を繰り広げ、菜々子の好きなジュネスのCMが流れ、相変わらずジュネス 好きな菜々子を微笑ましそうに総子は見ていた。

(ジュネス…か。陽介達ともまた会うんだよな…)

 一番、最初に仲間になったのが陽介。いや、一緒に特捜隊を立ち上げた相棒と言っても良い。

 そんな彼ともまた最初から絆を作り上げる。今度は性別も違うからどうなるか分からないが。

(明日から…楽しみだな)

 これから起こる事件を知っているだけに不謹慎ではあるがそう思っても仕方が無い。

 が、そこで総子はある事に気が付いた。

 事件が起こり、それを追い掛ける様になるのは知っている。だが、肝心の犯人に関する記憶がまったく無い事に。

 その事に総子は驚く。

(どう言う…事だ?)

 過去の事は覚えている。最初の叔父さんや菜々子との出会いの部分も覚えていたし、陽介達の事も覚えている。しかし、肝心の犯人に関する手掛かりがまったくと言って良いほどすっぽりと頭の中から抜け落ちている。

 防ごうと思うなら防ぐ事が出来るであろう事件の記憶…。

(これもベルベットルームが関係している…?)

 だったら何てややこしいのだろうか…。

 犠牲者は確実に出る。それは分かっているが、その犠牲者達の運命はもはや変えられないと言う事なのだろうか。そこに気が付くと、自分は確かに今ペルソナを発動出来ない事にも気が付く。

(…やっぱりベルベットルームに呼ばれるまで待つしか無いのか…)

 また歯がゆい思いをしなければならない。

「どうかしたの?」

「あ、なんでもないよ」

 急に黙り込んでしまった総子に菜々子が首を傾げる。

「疲れちゃった?おねえちゃん、今日は早く寝た方が良いよ?」

「…そうみたいだ。ごめんね。菜々子。今日はそうさせて貰うよ」

「ううん。あ、そうだお風呂は先にわかしておいたからおねえちゃん先に入って良いよ」

「うん。有難う」

(知っているのに記憶が思い出せないと言うのも辛いな…)

 けれど考えても仕方が無い。自分はまだ一介の高校生に過ぎない。多少は違うのかも知れないがそれでも今の自分は非力だ。人外の者が何を考えているのか何て普通は分かりやしないのだ。

 そう結論付けると、総子は立ち上がる。と、同時に今はその事を出来るだけ考えない様にする事にした。

 そして気分転換を図るように、たった今思い付いた事を口にした。

「そうだ、菜々子、一緒にお風呂入っちゃう?」

「え?……いいの?」

 突然の言葉に菜々子は少々戸惑う。それはそうだろう。今日来たばかりの従姉にそこまで甘えてしまって良いのかと、我慢強い菜々子がそう思ってしまうのは仕方が無い。

「うん。髪の毛とか洗ってあげるよ」

 けれど、菜々子はもっと甘えても良いと自分は思っている。幼い頃に母親を亡くしてからそうして他者に髪の毛とかを洗って貰う等の経験は殆ど無いであろう。前は自分は男だったからいくら菜々子が幼いとは言え、一緒に入る事は出来なかった。その代わり、仲間の女子達が菜々子の面倒を見ていてくれたのだ。

 だが、今は同じ性別だし、何より、菜々子には幸せになって貰いたかった。他の誰よりも。それだったら何をしても構わない。

 総子の言葉に菜々子は顔を輝かせた。

「…うん!」

 そして喜びを滲ませた返事を返してくれた。

 その表情を見る事が出来て、総子の表情はまた自愛に満ちた笑顔になっていた。

 普段は感情が殆ど表に出る事が無い総子に自然と此処までさせるのだから菜々子は彼女にとって癒しであり、堂島家は聖域に他ならないのだ。

 おきがえ持って来る!と嬉しそうに声を弾ませて、自分の部屋に行く菜々子の後姿を見送り、自分も着替えを取りに居間を出た。

















 風呂から上がり、早々に眠りに付く。

 やはり体は疲労していたらしい。

 そして夢を見た。

 真っ白な霧に取り囲まれて、姿が見えない人物と対峙し、問い掛けられる。

 その問い掛ける人物を自分は間違い無く知っている…いや自分の中の何かが知っている。

 そんな気がした。

 そして目覚めるとその夢はまた曖昧になる。
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