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ただいま
2012-04-11 Wed 00:33
「叔父さん、話があるんだけど」

 総司がそう堂島に話し掛けたのは3月に入ってすぐの頃だった。













「瀬多君…行っちゃったね…」

「ああ…」

「やっぱりこうなると何か…寂しいね…」

「センセイ……」

「先輩…」

「………」

「……」

 一年間総司と共に駆け抜けた仲間達は彼が乗った電車を見送れる限界の所まで来て見送った。

 みんな、暫くそこから動けなかった。

 彼の存在は彼等にとってとても大切で、そして大きな存在だった。

 自分達は彼がいてくれたから今を生き、自分に自信が持てる様になったのだ。

「…いつまでも此処にいても仕方が無いでしょう…。もう、戻りましょう…」

 直人がポツリと言葉を漏らすとみんな、のろのろとだが動き出した。

 そしてもう一度彼が去った方を名残惜しげに見て、それからホームを出る為に歩き出した。

 彼と約束した。

 離れていても心は繋がっていると。

「大丈夫だって。またすぐに会える。GWだってあるしな」

 陽介のその言葉に少々涙ぐんでいた仲間達はようやっと晴れやかな表情になった。

「そうだよね!いつまでもこんな顔してたら瀬多君に悪いよね!」

「そうですよ。先輩と約束したんだから。それぞれの土地で頑張るって」

「そうクマ。クマもセンセイとの約束を守るクマ!!」

「そうっスね」

 そしてホームから出た時の皆の表情は晴れやかだった。











 何て感動の別れ方をした筈の人物が目の前にいた。

「は……マジ…?」

 陽介はぽかーんと開いた口が塞がらない様だ。寝起きなのか髪の毛が所々はねている。

 その様子に総司は笑いを堪え切れていなかった。

「よう」

 そう言った表情は陽介が一番好きな笑顔だった。

















 朝早くからと言ってももう昼近くだったが、両親もクマもこっちに来て、仕事に行っていて家には陽介の一人しかいなかった。

 春休みも残り後僅かと言う事もあってかだらだらと眠っていたのだ。

 そこにチャイムが鳴り響く。

 最初は面倒くさくて出る気にもなれなかったが、相手もしつこかった。

 何度と無く、鳴らされ陽介は不機嫌なままにようやっとベッドから起き上がると、そのままの格好で玄関に出る。

「どちらさま?」

 不機嫌さを隠さぬまま言った言葉だから声が低くなっていた。

 が、続いて聞こえた声に陽介は一瞬にして顔を上げた。

「やっぱりまだ寝てたな」

 日本人にしては色素が薄く、髪も目も灰色の彼は何処か人をあざ笑うかの様に口元に笑みを浮かべていて。しかもそれがさまになって嫌味に見えない。

 そんな表情を浮かべる奴なんて陽介は一人しか思いつかない。だが、その人物はもうこの町にはいない筈で …。

 けど、今そいつは確実に実体を持って己の目の前に立っていた。



















「ちょ…っ?!え、何で??!」

 陽介の混乱っぷりに総司は満足した様に笑う。

「春とは言え、まだ寒いんだ。中に入れろ」

 そう言って陽介の混乱振りをよそに勝手知ったる何とやらで、総司は陽介を中の方へとぐいぐいとまた引き戻す様に押し込む。

 そして陽介の混乱がようやっと収まった頃には陽介の部屋のベッドの上に総司がふんぞり返り、部屋の主がその場に何故か正座していると言った構図になっていた。

「あのー瀬多さん、そろそろ教えて下さらないでしょうか…」

「何だ?俺が此処にいる理由か?見て解れ」

 ニヤニヤと意地悪そうな笑みを浮かべている。こんな表情は決して他人では見る事が出来ないもの。陽介だけが知っている表情だ。

 普段は無表情と言って良いほどに表情が出ない彼がこれだけ表情を浮かべているのも珍しい。それ程までに陽介の様子が面白いのだろう。

「だーーー!お前は確かに都会に戻ったんだろ?!何でまたこの町に戻って来てる訳?!!」

「まるで俺が戻って来ちゃいけない様な口ぶりだな。そうか、そう言うんだったら、都会に戻るか…」

「ちょ?!ま、待てって!!」

「うわっ」

 そう言ってベッドから立ち上がる素振りを見せると陽介が大慌てで総司の腕を引っつかむ。そしてそのままベッドへ二人揃って倒れこむ。

「…降参しますから、理由を教えて下さい」

 陽介が総司の上に乗っかる形でぽつりとそう、耳元で呟く。総司からは陽介の表情は見えない。彼は左肩に顔を埋め込んでいるからだ。

「降参か。…、まあ、あんだけ感動のお別れを有難うと言っておくべきだったかな。仕方が無い。その耳の穴をかっぽじって良く聞け。もう一年、こっちで過ごす事になった」

「もう…一年…?」

「そう」

「…マジで?」

「マジで」

「本当に?」

「本当に」

「嘘じゃないよな…?」

「嘘じゃない」

「夢じゃ…」

「無い」

 そう言うと陽介はようやく顔を上げる。その表情は今にも泣き出しそうな顔だ。

「おいおい、そんな顔するな…」

 よと続け様としたが、いきなり陽介に口付けられて言葉は続かなくなる。

 しつこい位に深い口付け。だんだん息苦しくなり、互いの息遣いが少し荒くなった頃ようやく陽介が唇を離す。

「お前…帰ってくるんだったらメールの一つ位何でも…入れてくれれば良かったのに…」

 ずびっと鼻を啜る音が聞こえる。そう言えば陽介の涙腺は事の他弱かったっけと今更ながらに思い出す。その事に総司はやり過ぎたか…と少々思ってしまった。

 と、言っても本当は総司とてどうやって切り出すべきか迷ったまま、陽介の家に来たのだった。だから昔の自分だったら取らない様な言動と行動を取ってしまった訳なのだが…。そんな事口が裂けても言えやしない。

 そんな風に考え込んでいると、不意に首筋に生暖かく湿ったものが這う。

「なっ!ちょ、陽介!!」

 流石に陽介が何をしようとしているのかが分かった総司は慌てて陽介を引き剥がそうとする。が、思ったよりも強い力で引き剥がす事が出来ない。そればかりかぎゅうぎゅうに抱き締められて身動き出来なくなる。それはもう二度と手放してたまるかと言う程に。

「無理、抑えきれない。話は後で聞かせて…」

 まるで雨に濡れた子犬の様な懇願に総司は諦めた様に肩の力を抜いた。

 それが合図の様に陽介はもう一度総司に口付けた。



















 気だるい空気を纏ったまま総司は陽介のベッドの上でぐったりとしていた。

 反対に陽介の気分は晴れやかで、総司の言葉を聴いていた。

「…だから親を説得しに都会に戻ったんだよ」

「じゃあ、何であん時に言わなかったんだよ」

「正直、戻って来られるかどうか半々だったからだ。叔父さんには3月に入った時点で、話はしていたんだ。けど両親が帰国したのは此処を離れた次の日だったからな」

「じゃあ、堂島さんは知ってたんだ」

「まぁな…。流石に戻ってこれるかどうかも分からなかったから菜々子にも伏せて貰っていたんだ。けど…」

「戻って来られたって事は両親の説得に成功?」

 総司の言葉を引き継ぐ様にして陽介が言うと総司は頷く。

「と、言うかあっさりと了承を得られた。こっちが拍子抜けする位に」

 その時を思い出して、電話だけにすれば良かったと陽介にしたら珍しく総司が愚痴をこぼすのを聞いた。

「そんな簡単に?」

「ああ。好きにすれば?ってな。我が母親ながら何処までも適当な親だよ。父親は母さんがOKなら何でも了承する人だしな。オマケに今度は海外移住長くなるからそれこそ宜しくだと」

 そう言ってのけた総司の言葉に陽介は何て言ったらいいのやら…。言葉が見付からない。

「それで、早々に戻って来ようにも手続きだの何だので結構時間取られてな。だからこんな中途半端な時期になった訳」

 分かったか?と言うと陽介はようやく納得した様に頷いた。

「じゃあ、今年も一緒に過ごせるって事だな」

「そう言う事」

 言い切ると、陽介はガバッともう一度抱き着いて来る。

「マジ感激なんですけど…」

「はいはい…。黙ってて悪かったな」

 そうして陽介の熱を直に感じながらぽんぽんと抱き締めてくる背中をあやす様に叩く。

「他のみんなには?」

「まだ言ってない。取り敢えず叔父さんと菜々子には会って、荷物を置いてそのままお前の所に来た。嬉しいだろう?」

 何せお前は特別で相棒だからな。

 そうサラっとそれこそ滅多に拝めない綺麗な笑顔付きで言われて、陽介の顔が一瞬にして赤くなる。そしてまたぎゅーっと力を込める。

「マジい…」

「は?」

「またヤりたくなって来た」

「お、おい?!」

 その言葉に総司は焦る。何せさっきやった時は殆ど手加減なしでやられ、クタクタでそれこそ次もやられたら立てなくなるかも知れない。

「でも我慢する。さっき、無理させた自覚あるし、これ以上ヤったらお前切れそうだし」

「良く分かっているじゃないか」

「伊達に一緒に修羅場くぐってませんから」

 そう軽やかに言ってどちらからともなく笑いがこぼれる。

「みんなに会いに行くだろ?」

「まあな…。ある程度は覚悟するさ」

「だろうな~。でも、案外涙の大洪水かもよ?」

「想像がつくな」

 そうして立ち上がろうとする。

「…行く前にシャワーかせよ?」

「了解」

 そして陽介の部屋を出かけた時。まだ言って無かったよなと陽介が呟く。

「…相棒、お帰り」

「ただいま」 

 



 その後、陽介と二人揃ってフードコートへ顔を出すと、陽介が呼び出した仲間全員が総司の顔を見て歓喜と涙が入り混じった声で出迎えられたのは言うまでも無い。
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